いのちてんでんこTheMOVIE制作に関わった方々のインタビューシリーズです。
初回は、振付家の小山柚香。
本映画作品では、出演・振付以外にも、演出助手、監督助手を担当。
マルチな活躍の裏にある、作品や振付作品への想いを伺いました。(青)
小山柚香|こやまゆうか|振付家・ダンサー
2012年〜パフォーマンスシアターグループ Comp.を主催。ダンス経験をもたない様々なジャンルのパフォーマーを起用し、即興を通して人格や生活習慣を浮き立たせるようなパフォーマンス作品を主に発表。近年は、東北の郷土芸能やインドネシア舞踊に興味を持ち、アジアに共通して見られる土着的な身体の在り方を研究している。
本作「いのちてんでんこ」は、2015年より参加。
当初はアンサンブルダンサーとして出演していたが、前任の振付家の退任に合わせて、総合振付を担当している。
国内外で幅広く活動を行い、最近の代表作「彼の地の匂い」はインドネシアでの経験をもとに創られた作品。
http://yuuka-koyama.com/
©Keiko Nomura
― 最初に作品いのちてんでんことの関わりから伺おうと思いましたが、今回の映画制作で、何役もこなされていました。
大変だったことも多かったと思いますが、どうでしたか?
小山:撮影から一ヶ月以上たっているので、(撮影は2021年11月末から12月初旬にかけて行われた)思い出して考えると、本当にいい経験をしたと思います。
映画撮影が初めてだったので、こういう作業が必要なんだなと。
舞台と違って、音声は音声、映像は映像と、それぞれでデータとしては残るじゃないですが。舞台だと全体が合わさっているから、成り立った結果だけをみていたものが、要素を分解して考える作業も多くて、それぞれのこだわりを感じるというか。
今までは(舞台公演では)音楽などの素材そのものを、ポンと渡されていたけど、それはこういう意味だったんだ、とか、こういう意図で作られていたんだな、ということに気がついて。
今までは知っているようで知らなかった部分とかがあって、なので、振付に活かせるようなヒントを得られた、という感覚があります。
だから有意義な時間でした。
石巻百俵館での撮影の様子。小山は、衣装管理やセットの設営などを行った。下の写真は、カメラチェックの様子。
― 映画って大変ですよね、撮影終わっても終わらないって感じが。監督(佐藤典之)もまた大船渡に戻ってきて、ずっと編集してますね。
では、いのちてんでんことの関わりのきっかけを教えてください。
小山:コンテンポラリーダンスを自分でフリーランスで活動していたんですが、ミュージカル作品に出たいと思っていて。その当時(2015年頃)はミュージカルでコンテンポラリーダンスを振付で使っている作品があまりなくて、それでこの作品に惹かれたのが大きい理由ですね。内容も震災の話で、芸術鑑賞会も各地で行っていて、自分の仕事としての意義を感じる仕事だし、自分のやりたかったことが結構詰まっているというか。
ちょうどその時、雪役のオーディションがあって、ダンサーとして応募しました。最終選考まで残していただいたんですけど、別の方(片山千穂、現在育休中)に決まったんですが、後日アンサンブルダンサーとして出て欲しいととお話いただいて、このカンパニーに入ることになりました。
その後二年ぐらいはダンサーで関わっていたんですけど、その時の振付家(前田新奈)がこのカンパニーを卒業されるってなった時に私を後任に推してくださって、そこから出演しながら振付・演出助手そして関わるようになりました。
2018年3月鎌倉芸術館小ホール
― 実際に振付を始めたのは何年前でしょう?
小山:四年前ですかね。多分、2015年の三月に鎌倉芸術館でダンサーで参加して、二年後の2017年あたりから振付してましたね。
― 歴史がありますね。ミュージカル作品にコンテンポラリーダンスが使われているのが目新しかったということですが、初期から現在まででの作中の表現方法がかなり更新されています。それに2015年からずっと携わっておられると思うのですが。
小山:振付に関していうと、前任の振付家はクラッシックバレエダンサーの方なので、ベースがバレエだったんですよね。ダンサーもバレエダンサーが多かったし、コンテンポラリーダンスの中でもバレエを元にしたコンテンポラリーダンスの振付だったんですが、今は結構、郷土芸能テイストがかなり濃くなっているんじゃないかなと思います。
身体的にいうと、どんどん(体の位置が)低くなって、土に近づいていって、真逆をいっているのかな、と思いますね。
私が振付になってすぐ全部の振付を変えたわけではなくて、元の振付から少しずつ直して行って、9割がた私の振付になっているという状態です。
変える必要のないところは残し、細かく変更しているけど構成は変わっていない部分もあります。
ここ数年、作品の出演者や前川さん(プロデューサー・前川十之朗)自身が東北地方の郷土芸能に対する距離感もかなり変わってきていて。実際に前川さんが岩手に移り住まれて、地域のつながりに入り込んでいったことによって、私たちもその恩恵をすごく受けるようになったり。
初期の頃は、東京に住んでいて考える岩手の郷土芸能、ていう距離感だったのが、岩手のあそこに住んでいる何々さんの団体の踊り、みたいな距離感にここ数年変わってきたとうのが、振付にも反映されていると思います。
― 前任の振付家が卒業したきっかけと、前川プロデューサーが岩手に移り住んだというのが大きな転換点になったのでしょうか?
小山:それまでは、前川さんの以前のカンパニー「未國」という名前で作品を作っていたので、私が入る前から、この曲は誰々さんの振付、こっちは誰々さんという感じで、トータルをまとめる振付家がいるんですが、この曲だけ違う振付家が入っていたりとかあったので、振付家が変わるというのは、わりとこのカンパニーはコンスタントにあったのかな、って思うんですけど。
― 一番最初の頃と踊りが全くちがいますよね。先日FacebookでUPした映像のシーンは、もう劇中にはないシーンで構成も違いますし。
今回映画化ということで、今まで以上に内容がかなりリアルになりましたが、その辺はいかがでしたか?
小山:いやー、佐藤監督と前川さんが内容のリサーチし直したじゃないですか。もう、それが、本当に脚本にしっかり出ていて。なんだ、もう別物だなって、思いましたね。作品としての濃さが違う。
― 今回、『前澤日出夫』という新しい役の登場によって、物語の全貌が見えた、というところはありますね。
(『前澤日出夫』は、震災後、三陸に取材員として訪れていたプロデューサー前川十之朗がモデルとなっている。)
小山:確かに、誰の目線のストーリーなのか、っていうのは今まではなかったから。
― 今回の映画で役が二人増えましたし、メインの三役も全員配役が変更となりました。
今回の映画化で新たに二名の配役が増えた。
プロデューサー・前川十之朗をモデルにした前澤日出夫(芝原弘)と、気仙地区のこちらも実在の新聞記者・村上和輝(大石丈太郎)。
二人がストーリーに加わることによって、内容がよりわかりやすく、メッセージが伝わりやすいものになっている。
小山:なんかもう、ハマリ役ですよねみんな笑。それぞれの役のモデルになった実在の人物がリアルにいるので、実際のモデルになった方々はこういう感じだったのだろうな、というのが、そのまま現れたような三人だったので。
― すごく感情移入がしやすくなった感じはありますね。
小山:普段の舞台だと顔のアップってなかなか見れないから、すごく見応えがある。感情移入を多分、本人たちもしやすかったんじゃないかな、って思うし。私たちも端で見ていても、ぐっとくる瞬間がたくさんあったんですけど。役者さんならではの、映像ならではの近さの、にじみ出る表情とかが素晴らしくて、よく、この1~2ヶ月くらいのクリエイション期間でここまでキャッチアップしていただいて、もう、素晴らしいなと思いました。
Part2へ続きます。